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​身近な風景

蛇にまつわる人々⑦

執筆者の写真: tokyosalamandertokyosalamander

更新日:2月6日

2025年2月1日(土)13:30~15:30、栃木県立博物館講堂で、ヘビ類の行動・生態に関する世界的な研究者である森 哲(もり あきら)氏(京都大学大学院理学研究科 教授)による講演会がありました。

(↑「栃木両生爬虫類の会」が記録用に撮影した写真です。)

講演会のタイトルは、

「ヘビとヘビの餌とそれ以外:京都発、沖縄経由、マダガスカルに寄ってアジアを巡る」

学生時代から現在に至るまでの研究活動について、そのエッセンスが講演されました。


私が森先生にお目にかかるのは、今回が初めてでした。しかし、今回の講演会のセッティングをされた栃木両生爬虫類の会の林さんと森先生が京都大学時代の同期生で友人、ということらしく、事あるごとに林さんから「森氏が‥‥」「森氏が‥‥」と嬉しそうにお話されるのをよく聞いていましたので、私の中では「森氏」という言葉がインプットされていました。


さらに、私の中で「森氏」の存在がクローズアップされたのは、2017年に創刊された両生類・爬虫類専門雑誌 「Caudata」(有尾類)に連載されている森先生の「特撮とハーペトロジー」というエッセイです。なお、ハーペトロジーは爬虫両生類学という意味です。


文末に載せられている著者(森先生)の紹介にはこんな言葉が書かれています。

「小さい頃から特撮やSF、パニック映画が好きで、屈指の名作と見なしている特撮ドラマのエピソードは、ウルトラセブン第45話の「円盤が来た」。ペロリンガ星人がフクシンくんを慰めるときに言う、「人間なんて、そんな動物さ」が座右の銘。」(以上、Caudata 創刊号 p35より一部引用)

なんとも痺れるエピソードである。


森先生がこのエッセイを連載するきっかけは、ゴジラやガメラなど、特撮映画の怪獣に、爬虫類が原型としてよく使われているように思えることから、この「特撮とハーペトロジー」という連載記事を執筆することとなったそうです。


その記念すべき第1回は「有尾類の怪獣怪人」でした。

ちなみに、私の机の上には「南アルプスの人食いサンショウウオ」ザンジオーが、いつも見守ってくれています。


特撮とハーペトロジーの連載は、サンショウウオから始まり、ガマ、コブラ、カメ、トカゲ、ワニへと進んでいきます。


これらを読み返していると、今回のテーマ展「ヘビなんて、キライ!」という認識の一因には、歴代の怪人の原型の多くが爬虫類であることとも関連があり、いかにおどろおどろしく振舞い、敵役として嫌われる存在となるよう、人間が英知を傾けてきたことが背景にあるのかもしれないと思いました。


とはいえ、それらを愛して止まない森先生が、ヘビの世界的な研究者となられていることを考えると、そう簡単なことではないと思い直しました。


さて、大分回り道をしてしまいましたが、今回の本題の講演会の話に戻ります。

会場には100人近くの人々が集まり、中には、ヘビの研究者の姿も多数見られました。やはり、ヘビの世界的な研究者のお話を直接聞いてみたいという人たちが大勢いるようです。


講演の内容(スライドで示されていたもの)は、

・ヘビ研究のみちのり

・ヘビと暮らす

・沖縄での調査

・マダガスカルでの調査

・アジア特産ヤマカガシ属の秘儀

というものでした。


実は当日所要があって、参加できたのは講演の終盤近くになってしまいました。そこで、講演の前半がどんな内容だったか、栃木両生爬虫類の会の小林さんに聞いてみました。


「講演はヘビの食性と捕食行動、毒を軸にして、大学に入る前のヘビとの関わり、大学時代とその後の活動や研究について話がありました。

冒頭ではヘビの好き嫌いに関して話があり、なぜヘビの研究をしているのか?なぜヘビが好きなのか?とよく質問されるそうで、ヘビの研究は楽しいからしている、振り返るとヘビはもともと好きだったとのことでした。逆になぜヘビが嫌いなのか、理由を考えると細長いから、毒があるから、ヒト(という生物)はヘビを嫌う性質がある、ただの食わず嫌い・・・などが考えられ、食わず嫌い(なんだかよく分からないけどイヤ)の人は何とかしたい、と話されてました。


その後の話は主に、

ヘビの食性

京都大学演習林での研究

沖縄での研究(ヒメハブ、アカマタ)

マダガスカルでの研究

アジアのヤマカガシ属の毒に関する研究 

についてでした。」


私が聞いたのは、最後のヤマカガシ属の毒に関するお話で、とても興味深く面白いお話でした。


ヤマカガシは、日本に生息しているヘビの中で、毒を持っていることが知られるようになってきました。その毒には、歯の奥にあるディベルノア腺(捕食用)と頸部にある頸腺(防御用)の2種類あります。ディベルノア腺の毒は、自分の生体内で生成し、獲物に注入することで作用しますが、頸腺の毒は、エサとなるヒキガエルの毒(ブファジエノライド)を再利用し頸腺に貯め込み、敵から襲われ、頸腺が傷つけられると、相手めがけて噴出します。


そのため、ヤマカガシは外敵に出会うと、頸腺のある首を相手に打ち付けたり、背中を見せたりするそうです。そうした行動で頸腺を傷つけさせ、相手めがけて毒を噴出させるよう誘導します。


ところが、日本でヒキガエルが生息していない宮城県の金華山に生息するヤマカガシは、ヒキガエルの毒が手に入れられないため、外敵への首打ち付けや、背面見せ、という行動をとる頻度が低く、ひたすら逃げるという防御をしていることが分かりました。こうしたヤマカガシに実験的にヒキガエルを食べさせると、首曲げ、首広げという行動をとるようになったそうです。つまり、ヤマカガシは、自分が頸腺の毒をもっているかを把握しており、それによって行動が変わる、ということが分かってきました。


また、アジア産のミゾクビヘビも頸腺をもつヤマカガシの仲間で、ミミズを主食としています。しかし、ミミズは毒を持っていません。ミゾクビヘビは、マドホタル類の陸生のホタルの幼生を食べることで、そのホタルの持つブファジエノライドを取り入れていることが分かってきました。ミゾクビヘビは、なぜ、ホタルの幼生が毒を持っていることが分かり、食べるようになったのかは現在のところ、課題だそうです。


こうした「頸腺システムの進化」が、森先生の現在の研究テーマの一つだそうです。とても興味深いお話でした。



講演会終了後、さらに質問をしたい方のために、別室でお茶会が催されました。このお茶会は、講演会の共催団体である栃木両生爬虫類の会会員を対象として行われましたが、時間まで質問が尽きることはありませんでした。ここまで熱気のある講演会+お茶会はあまりないと思います。私も質問させていただきました。


実は、私と森先生の間には、もう一つ繋がりがあって、私が佐野高校の科学部の顧問をしていた時、部長をしていた生徒(「こまたい」くん)が、現在京都大学に在学中で、森先生のいらしゃる動物行動学研究室に所属しています。森先生も「こまたい」くんをよくご存じでしたので、お互いに共通の人物を通して繋がっていくのは素晴らしいことだと思いました。また、ここまで頑張ってきた「こまたい」くんにも感謝です。

今回は、単なるヘビの研究者ということを越えて、お会いできてよかったと思いました。


ちなみに森先生が着ていらしたトレーナー?には、ヤマカガシのイラストが描かれており、ネットで見つけて購入したそうです。「自分も欲しい。どうやったら手に入るのか」という質問をされた方もいらっしゃいました。


PS:その後、森先生からの追加情報で「イラストのヘビは、すべて日本のヤマカガシがモデルです。ただし色塗りはデフォルメされているので、実際には存在しない色合いのがあります。」とのことでした。



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