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​身近な風景

執筆者の写真tokyosalamander

クマゼミの分布拡大に関する覚書

更新日:2023年9月1日

8月31日(木)。「クマゼミ」便り(8月24日)で紹介した「クマゼミの分布北上」について、文献等で調べた内容を紹介します。はたして、クマゼミの分布北上は、地球温暖化の影響なのでしょうか。


全部説明すると長いので、最初に結論を述べておきます。


それでは、クマゼミ研究について、時間を追ってみていきましょう。


①まずは、日本初のセミ学の古典的名著、加藤正世著「蝉の生物学」(1956)です。

ニューサイエンティスト社から1981年に復刻版が出版されました。復刻版を所蔵していた埼玉県立久喜図書館で閲覧・コピーしてきました。

本書では、クマゼミの分布の北限は神奈川県、としています。しかし、東京都、埼玉県、群馬県、茨城県等でも鳴き声を確認しています。ただし、鳴かない雌は発見されていないことから、定着しているかどうかはわからない、としています。


②次は、「栃木県の動物と植物」(1972)です。

栃木県内の動植物に関する、初めての本格的な書籍です。

本書では、宇都宮市でもクマゼミの鳴き声が確認されていたことが、さりげなく書かれています。これは驚きでした。温暖化云々という以前から、クマゼミは鳴いていたんですね。


さらに20年近くが経ちました。

中尾舜一著「セミの自然誌」(1990)でも、クマゼミの分布の北限は神奈川県とされています。しかし、東京都の代々木公園では、毎年、脱皮殻が採集されるなど、すっかり定着しています。その理由は、公園内に植木が移植された際に人為的に移入されたという説が有力とされています。


ここで、セミ研究の大きな転換点が訪れました。

環境庁による 第5回緑の国勢調査「身近な生き物調査(セミの抜け殻)」(1995)です。

これによって、東京都の他、千葉県からもクマゼミの抜け殻が見つかりました。

以下のサイトで、クマゼミを選択すれば、上記の図を見ることができます。


沼田英治・初宿成彦著「都会にすむセミたち 温暖化の影響?」(2008)

大阪ではここ数十年で、クマゼミが激増してきました。その原因が温暖化と関係あるのかどうかを解明した研究が紹介されています。本書では、2030年には、東京がクマゼミの街になることを予言しています。


林正美・税所康正著「日本産セミ科図説」改訂版(2015)

現在、日本のセミに関する書籍の最高峰です。ここでも、クマゼミの分布は神奈川県までで、それより東または北での記録は、多くは植栽などによる人為的移入であることが示されています。また、気候温暖化に伴う分布域の北への拡大は、科学的に否定されていることを紹介しています。


沼田英治著「クマゼミから温暖化を考える」(2016)

著者は、温暖化によって冬の寒さが緩和されたことによって、クマゼミの卵の越冬中の死亡率が低下してクマゼミが増えたという仮説を実験によって、明確に否定しています。

また、都市化によるヒートアイランド現象がクマゼミの増加に関係していることを証明しました。

一方、クマゼミがもっと北に分布を広げる可能性は高い、としています。

この本の内容は、以下に紹介する、中学校国語2年(光村図書)の教科書にも紹介されています。


税所康正著「セミハンドブック」(2019)

現在、手軽に手に入れられる最高の図鑑です。日本産セミ33種+解説4種を調べられるハンディ図鑑。地域・鳴き声・ぬけ殻の検索表つきで、QRコードから鳴き声を試聴できます。

クマゼミについては、公園や街路樹への植物の移植などの人為的な原因により、分布を拡大し、その結果、関東各地で鳴き声の報告が増えていることを紹介しています。


光村図書「中学国語2年」(2021)沼田英治著「クマゼミから温暖化を考える」

⑦で紹介した、沼田英治著「クマゼミから温暖化を考える」(2016)の内容を教科書用に編集した書き下ろしです。クマゼミの大阪での増加と温暖化の関係について、科学的な根拠を一歩一歩積み重ねて結論にたどり着く様子を明確に示しています。

素晴らしい内容です。



⑩次は、1995年に行われた「緑の国勢調査」を進化させた全国的な調査です。

ウェザーニュース社「全国セミ調査」(2022)です。ウェザーニュースのアプリ利用者を対象にアンケート調査を実施しました。まさに、DX時代のネット調査です。

この調査は、クマゼミが「たくさんいる」「少しいる」「いない」の中で最も割合の高かった回答を都道府県別に色分けしています。これまでに鳴き声の記録がある都県でも、回答の割合からすると、「いない」に分類されていますが、ある意味、実態に近い結果と言えるのかもしれません。



⑪最後は、現在進行中のNHKシチズンラボ「セミ大調査」(2023)です。調査は、2023年3月20日~10月31日まで募集しています。


その参考資料として、「日本セミの会」が監修した「クマゼミの分布図」(以下)が提示されています。それによると、宮城県、福島県、茨城県、栃木県については、不明確。鳴き声のみの記録は「いる(推定)」に分類しています。「セミ大調査」の結果が出れば、最新の分布状況がわかると思います。


以上、クマゼミの分布北上に関して、どこまで明らかになっているのか、また、今後、どのようになっていくのか、を文献から関係する個所を抜き出し、覚書として記載しました。


それでは また!








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