群響「ベト2・5番」
- tokyosalamander
- 11 分前
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2025年11月24日(月)15時~、太田市民会館を会場として群馬交響楽団創立80周年記念「ベートーヴェン交響曲全曲演奏会第2回(全5回)が開催されました。

本日のプログラム
指揮/広上淳一
ヴァイオリン/成田達輝
ゲストコンサートマスター/篠原悠那
ベートーヴェン/交響曲第2番
外山雄三/ヴァイオリン協奏曲第1番
ベートーヴェン/交響曲第5番

ベートヴェンの交響曲の中では、地味な存在の第2番と超有名曲の第5番とのカップリングでした。一見関連性はなさそうに見えますが、コンサートのProgram Notes(福田弥) によれば、第2番を境に、ベートーヴェンの作風は力強いものへと変化したそうです。
ベートヴェンは、1790年代の終わり頃から耳の疾患に苦しめられるようになり、1802年には有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」を書き残しました。これは絶望に打ちひしげられるだけでなく、むしろ、困難を乗り越えようとする決意表明でもあったそうです。
この1802年からの10年間で、交響曲第3番や第5番といったベートヴェンの中期の力強い作品が生み出されました。ベートーヴェンにとっての「傑作の森」(ロマン・ロランによる表現)と呼ばれる時期となっていったのです。そのきっかけとなる作品が、この年に完成された交響曲第2番でした。

このような予備知識を背景に、広上淳一指揮の群響の演奏を聴きました。
第2番は、第5番と同様に弦楽5部で、楽器構成の規模は、ほとんど同じでした。また、力強いスケルツォ楽章が導入されています。近年は古楽器的なアプローチがなされることもありますが、広上さんと群響は、現代オーケストラの技術の粋を惜しげもなく、第2番から全開させていました。特に、オーケストラ右側の低弦(チェロやコントラバス)をごりごり響かせ、音の厚みを強調していました。第2番には優美な印象を持っていましたが、ベートヴェンの決意表明ともとれる力強さに圧倒されました。決して地味な曲ではなく、滋味に溢れた演奏に納得しました。ゲストコンサートマスターの篠原悠那さんも新鮮な魅力を感じさせる好演でした
2曲目は、外山雄三のヴァイオリン協奏曲第1番でした。今日演奏されることは稀だそうです。しかし、実際に聴いてみて曲の素晴らしさに驚愕しました。ヴァイオリンの超絶技巧が散りばめられているこの曲は、演奏すること自体が難しいのかもしれませんが、「パガニーニの再来」と評される成田達輝さんの切れのいい演奏と広上=群響の包容力のあるバックが見事に融和し、これ以上ないほど感動的な演奏となりました。外山雄三の代表作の一つである「管弦楽のためのラプソディ」には数々の民謡の旋律が散りばめられています。ヴァイオリン協奏曲第1番にも民謡の調べがあちこちに登場し、最後は打楽器と八木節の賑やかなリズムで締めくくられました。民族的な要素がハチャトリアンや芥川也寸志を彷彿とさせる現代音楽のリズムの中に自然に取り込まれていました。
*ユーチューブでは、作曲者である外山雄三の指揮:NHK交響楽団、ヴァイオリン:海野義雄による名演を聴くことができます。
圧倒的な拍手に応えて、成田達輝さんがアンコールに弾いた曲は、ヴァイオリン協奏曲第1番の中の八木節のフレーズを基に自ら作曲・編曲した曲でした。成田さんは青森の生まれですが父親の転勤で中学1年の時から群馬県前橋市で育ちました。八木節は両毛地域で愛されている俗謡・盆踊り唄であり、成田さんにとって特別な思いがあったのでしょう。群馬県や外山雄三への深いリスペクトが伝わってきました。指揮者の広上さんも、これを聴いたら外山雄三さんは泣いて喜んだでしょうと語っていました。
ここまでが前半でしたが、すでに十分満足している自分がいました。
さて、最後の交響曲第5番です。第2番のスタイルを発展させ、新たに加わったトロンボーンの音色がさらに高みを目指そうとするベートーヴェンの心意気をぶつけてきました。このコンビの演奏が悪かろうはずはありません。さらに、群響の演奏で聴いているうちに、第9番にも通じる祝祭的な意味合いを強く感じました。ジャジャジャジャーン、という一度聴いたら耳から離れないフレーズは、音楽の垣根を低くし、誰もが興味を持てる曲へと変貌しました。最後の盛り上がりの凄さは、第9番の終楽章と同様に、一種のお祭り騒ぎのように感じました。交響曲第5番が人の心や社会を動かす力を持ち始めたことを広上=群響による演奏が証明してくれました。

鳴りやまないカーテンコールに応えて、広上さんは2回ほどステージに登場しました。そして、3回目の登場では、ステージの前に進み出て、「今日はアンコールはありません。私も群響も力を出しつくし、疲労困憊なので勘弁してください。」という短い言葉で笑いを取りました。そして、久しぶりに共演した群響は素晴らしく成長を遂げていて、今や日本を代表するオーケストラだけでなく、必ずや世界でも有数のオーケストラになると確信しています、という感想を述べられました。これには私も同感でした。

現在、世界各地で戦争や紛争が絶えまなく起こっていますが、オーケストラは人類が平和を守る最後の砦である、人の手によるアナログの極致だからこそ、人の心を動かすことができるというお話でスピーチは締めくくられました。

ベートーヴェンの音楽は、かつては市民社会が誕生するきっかけを作ったように、今でもなお、人の手による社会の絆をつないでいくことを訴える力を持っていると思いました。




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