都響:ブルックナー6番
2026年10月10日(土)、すみだトリフォニーホールで、ジョナサン・ノット指揮東京都交響楽団による「ブルックナー交響曲第6番」他を聴きました。

パワーのあるオーケストラが本気になってブルックナーを演奏するとどうなるか、それを知ることになった演奏会でした。
会場は、JR錦糸町駅北口から徒歩5分の「すみだトリフォニーホール」でした。

ホールの入り口までの通路の柱には、楽器をイメージしたモニュメントが並んでいました。夜、ライトアップされていたら、音楽が聞こえてくるような素敵な空間だったに違いありません。

私の席は1階の7列21番の席でした。
ここからステージを見ると、客席の前方がせり上がり、その先の舞台を見上げるような不思議な感覚が生じました。このホールの音響は、個々の楽器の音が明瞭に聴こえ、しかも豊かな響きに包まれることが特徴です。
<今回のプログラム>
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
(休憩)
ブルックナー:交響曲第6番
指揮/ジョナサン・ノット
ピアノ/アンヌ・ケフェレック
東京都交響楽団
指揮者のジョナサン・ノットは、2026年3月までの12年間、東京交響楽団の音楽監督を務めてきました。そのジョナサン・ノットが、今回、初めて東京都交響楽団を指揮しました。さて、両者の初共演はどうだったでしょうか。
1曲目:ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
→ピアノのアンヌ・ケフェレックは、フランスを代表するベテラン・ピアニストの一人です。1948年パリ生まれで、現在78歳です。
第1楽章:Allegro moderato — ピアノが静かに語り始めます。
第2楽章:Andante con moto — 緊張感のある弦楽器とピアノの静かな対話。
第3楽章:Rondo. Vivace — 明るく生き生きとした終楽章。
演奏は、非常に繊細でモーツァルトのように聴こえる時もありました。しかし、ここぞという時は華奢な体からは想像がつかないほど、力強い打鍵を響かせました。そのコントラストが曲に命を吹き込んでいるように感じました。
オーケストラは第1ヴァイオリン10名という通常の編成で厚みがありました。ピアノの音が埋もれてしまうのではないかと思いましたが、終始、粒立ちのよい美しいピアノの旋律が鮮明に浮かび上がっていました。
ケフェレックの集中力は最後まで切れることなく、終楽章では音楽そのものに突き動かされているかのような最高の盛り上がりを見せました。モーツァルト的な透明感とベートーヴェン的な情熱が交錯し、強烈な生命力を発揮した演奏に客席からは大きな拍手が沸き起こりました。
2度3度とカーテンコールが起こりました。もう時間だから、と腕時計を指さすようなしぐさを見せていましたが、それでも拍手は鳴りやみませんでした。ついに、意を決したかのように再びステージに現れ、真っすぐにピアノに向かいました。
「ヘンデル、メヌエット」 静かな声の後、アンコールが始まりました。
現在のケフェレックの心のままが演奏に現れていたように感じました。
ベートーヴェンでは内に秘めた情熱を解き放ち、アンコールでは、あらゆる技巧や華やかさを超えて、音楽そのものと向き合う静かな美しさ。私は、これで完結したような満足した気持ちになりました。
2曲目:ブルックナー:交響曲第6番
この曲は、ブルックナーの交響曲の中でも、特に好きな曲です。
大学時代、友人の車で臨海実習に向かっていると、日が暮れた海岸線を走る車の中で、この曲が流れてきました。(当時発売されたばかりのギュンターヴァント指揮ケルン放送交響楽団の演奏でした。友人はカセットに録音したものを流してくれました。)
心地よいリズムが印象的で、抒情的でありながらも推進力がありました。この曲には夕暮れの風景がよく似合う、と感じたことを思い出しました。
今回、初めて聴く実演で、40数年前の記憶が蘇りました。
第1楽章:Majestoso — 絶えず前進するリズム
第2楽章:Adagio. Sehr feierlich — 悲しみと慰めが交錯する深い歌の世界
第3楽章:Scherzo. Nicht schnell — 幻想的で躍動するスケルツォ
第4楽章:Finale.Bewegt, doch nicht zu schnell — さまざまな主題が交錯し、最後は第1楽章の世界へ回帰
ジョナサン・ノットの指揮は、とにかく流動的で絶えず音楽が流れていました。また、東京都交響楽団はブルックナーでは第1ヴァイオリンが12名に増強されており、計り知れないパワーを感じました。
特に印象的だったのは第2楽章で、ジョナサン・ノットの指揮によって、悲しみと慰めが交錯する深い歌の世界を途切れることなく紡ぎ出していました。オーケストラの圧倒的な音量に包まれ、自分が水の中にどっぷりと浸っているような心地よさを感じました。この感覚は、大学時代、夕暮れの海岸線でこの曲を聴いていた時の感覚に似ていたのかもしれないと思いました。
この時、初共演のジョナサン・ノットと東京都交響楽団には、全身全霊をかけた本気度を感じました。両者は一歩も譲らず、がっぷり四つで、深い響きで歌い上げました。ここは勝負所でした。俺たちが本気でブルックナーを演奏するとこうなるんだ、ということを思い知らされました。
また、オーケストラは第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置をしており、左右の声部の動きが明確に聴こえたことが印象的でした。このことは、個々の楽器の音が明瞭に聴こえ、しかも豊かな響きに包まれる、このホールの特徴がうまく生かされていたと思いました。
そして、第4楽章の最後は、圧倒的な高揚感をもって終わりました。自分の座席からステージを見ると、客席の前方がせり上がり、その先の舞台を見上げるような感覚がありましたが、音楽のクライマックスともに、オーケストラの響きが巨大な渦のように大きく広がっていくのを見上げている自分がいました。


この演奏は、お互いにとって会心の出来栄えだったのではないかと思いました。指揮者も楽団員も満面の笑みを浮かべていました。

ブルックナーの交響曲の中でも大好きな第6番をこのような素晴らしい演奏で聴くことができて本当に良かったです。
また、初めてのホール・指揮者・オーケストラとの出会いは、音楽を聴く楽しみを大きく広げてくれていることを感じました。




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