馬にまつわる物語⑰
2026年9月20日(日)、上野動物園の西園「子ども動物園」のふたば牧場で飼育されている日本の在来馬(野間馬、トカラ馬、与那国馬)に会いに行きました。

台風25号の影響で朝から雨が降る中、在来馬を求めて「上野動物園」にやって来ました。


日本在来馬とは、洋種馬など外来馬とほとんど交雑せずに残ってきた日本固有の馬の総称です。現存する在来馬は、北海道和種(道産子)、木曽馬、野間馬、対州馬、御崎馬、トカラ馬、宮古馬、与那国馬の8品種で、各地の農耕や荷物運搬に使われ、地域文化とも深く結びついてきました。

上野動物園では、在来馬8品種のうち、野間馬、トカラ馬、与那国馬が飼育されています。

8月25日に、愛媛県今治市にある「のまうまハイランド」で野間馬に会ってきましたが、その際、上野動物園でも在来馬が飼育されていることを知り、行ってみたいと思っていました。
<野間馬:えりか>

メス・1994年5月10日生まれ(32歳)
「のまうまハイランド」から、2008年に上野動物園へやってきました。体高は約97cm。日本在来馬の中で最も小さい野間馬らしく、3頭の中でもひときわ小柄です。
「葦毛(あしげ)」という毛色で、年齢とともに白くなっているそうです。現在32歳と高齢(人間換算で約90歳)で、視力もかなり低下しているため、周囲を鼻先で確かめながらゆっくり歩いています。
<トカラ馬:琥太郎(こたろう)>

オス・2007年3月3日生まれ(19歳)
鹿児島県のトカラ列島を原産とする小型の在来馬。琥太郎は鹿児島大学農学部附属入来牧場から、2007年10月に上野動物園へやってきました。トカラ馬の体高は約110cm。暑さに強く、かつてはサトウキビなどの運搬にも活躍していました。
<与那国馬:シン>

オス・2008年生まれ(17~18歳)
日本最西端の沖縄県与那国島を原産とする在来馬です。2010年に与那国馬保存会から上野動物園にやってきました。体高は約110~120cm。茶褐色の鹿毛や栗毛が多く、島ではかつて農作業や薪の運搬、人の移動などに利用されていました。
3頭ともおとなしく、エサを食べたりしていました。
チャッピーに3頭の在来馬についてまとめてもらいました。

今回は、それぞれの在来馬について、少し詳しく見てみることにしました。
(図表はすべてチャッピーの作成です)
まずは、全国で飼養(飼育・管理)されている在来馬の頭数です。

ご覧のように、北海道和種馬(道産子)の頭数が最も多く、木曽馬、与那国馬、御崎馬、トカラ馬が100頭前後、野間馬、宮古馬、対州馬は、さらにその半数程度となっています。
その中で、野間馬、トカラ馬、与那国馬は、どこで飼育されているのでしょうか。
<野間馬>

今治市の「のまうまハイランド」が保存(繁殖)の拠点となっていることがわかります。
他は数頭程度です。
<トカラ馬>

トカラ馬は、鹿児島大学入来牧場を中心に、県内の複数拠点で保存・繁殖されています。
<与那国馬>

一方、与那国馬は、与那国島や沖縄県の複数施設で保存・繁殖が行われていることに加えて、全国各地(北海道・本州・四国)の施設で飼育されています。
これらの飼育施設等を比較してみると、3品種の在来馬は、それぞれ異なる保存・飼育体制を持っていることがわかりました。

野間馬:今治市を中心とした「拠点型の保存」
→野間馬は、1978年に松山市の愛馬家から今治市へ4頭が寄贈されたことを契機に、地域ぐるみの保存活動が本格化しました。同年、野間馬保存会が発足。1989年には「のまうまハイランド」が開園しました。つまり、最初から今治市が地域の文化遺産として守るという性格が強かったという歴史的背景があります。
しかし、2009年策定の今治市保存管理計画では、感染症などによる絶滅を防ぐため、飼育場所を分けて確保することも課題として挙げられており、拠点集中だけを目指しているわけではないようです。野間馬保存会は、愛媛県立とべ動物園にも野間馬を分散・管理しています。
2026年には愛媛県指定天然記念物となり、今治市を中心とする保存体制は、現在も受け継がれています。「野間馬」が県指定天然記念物に指定されました | 文化振興課 | 今治市

トカラ馬:絶滅を回避するための「県内分散型の保存」
→1960年、トカラ馬はわずか32頭に減少しました。
そこで、絶滅を防ぐため、トカラ列島から鹿児島県本土の複数の施設へ移されました。
その後、1973年に鹿児島大学・鹿児島県・畜産関係者などによってトカラ馬保存会が設立されています。 トカラ列島・中之島、鹿児島大学入来牧場、開聞山麓自然公園の3か所に群れを維持する体制が確立したことで、分散先で繁殖を継続する仕組みが生まれました。
そのため、鹿児島県内に飼育施設が点在しているのは、偶然ではなく、絶滅回避を目的とした歴史的な移動と関係しています。現在もトカラ馬は鹿児島県の天然記念物であり、県や鹿児島大学などが保存を担っています。鹿児島県教育委員会/トカラウマ
与那国馬:「保存すること」と「活用すること」を結びつけた全国展開
→与那国馬も農業の機械化で減少しました。1969年に与那国町の天然記念物に指定され、1975年には保存会が設立されました。島内の北牧場・東牧場での集団保存は、現在につながる重要な取り組みです。一方、島外への普及を進めてきた別の流れがあります。与那国島で馬の飼育や乗馬を学んだ人たちが、別の地域で新しい牧場を立ち上げ、人のつながりを通じた活動が広がっています。
ヨナグニウマ保護活用協会は、繁殖だけでなく、乗馬、治療的乗馬、動物介在教育、海での馬遊びなどにも取り組んでおり、こうした活動が、馬を飼育する新しい場所と、飼育を支える人材の両方を生み出し、全国に与那国馬の輪が広がっています。ヨナグニウマ保護活用協会について - ヨナグニウマ保護活用協会

上野動物園で出会った3品種の在来馬について、全国の飼育施設を調べてみたところ、このような興味深い違いが見えてきました。
こうした違いの背景には、それぞれの在来馬が歩んできた歴史や、保存活動を担ってきた人々の取り組みがありました。
在来馬を守るということは、単に個体を飼育し続けることではなく、繁殖によって次世代につなぐとともに、人々が馬と関わる機会をつくり、その存在を社会の中で支えていくことも重要なのだと思います。
在来馬の保存という問題には、それぞれに「馬にまつわる物語」が存在することがわかりました。
こうして、上野動物園の西園を後にしました。かつてパンダがいた西園は雨のせいもあり、閑散としていました。

屋外にいた動物たちは、雨に濡れながら、じっとしていました。

屋根付きの休憩所で、雨を避けるスズメたち。エサをもらえると思ってか、徐々に足元まで近づいてきました。数十年ぶりの上野動物園でした。
「馬にまつわる物語」
今後は、まだ見ぬ在来馬を訪ねてみたいと密かに思っています。




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