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​身近な風景

馬にまつわる物語⑱

執筆者の写真: tokyosalamander
tokyosalamander
22 時間前
読了時間: 5分

更新日:17 時間前

2026年10月10日(土)、リツさんとイトさんは大洗水族館にやって来ました。そこで「タツノオトシゴ」(シーホース:海馬:うみうま)に出会いました。

大洗水族館で飼育されているタツノオトシゴは、オーストラリアに分布している「ポットベリーシーホース」です。確かに、頭の形は馬に似ていますね。


リツさんは「タツノオトシゴ」ポーズをしているようです。


タツノオトシゴ(竜の落とし子)は、ヨウジウオ科タツノオトシゴ属(Hippocampus)に分類される魚の総称です。狭義にはその中の一種 Hippocampus coronatus の標準和名としても用いられています。



日本語では「竜の子」ですが、英語・中国語・フランス語、さらには学名(属名)も「海の馬」に由来しています。

(制作:チャッピー)


さて、今回の「馬にまつわる物語」は、名前の由来に関する物語です。


ギリシャ神話にはヒッポカンポス(Hippocampos)という伝説上の生き物が登場します。その姿は、馬の頭と前半身を持ち、後半身は魚の尾になった海の怪物です。

海神ポセイドンの戦車を引く動物として、古代の美術作品にも描かれています。

海神ネプトゥヌス(ギリシャ神話のポセイドンに相当)と2頭の海馬(ヒッポカンポス)


3世紀中頃の古代ローマ時代のモザイク画。チュニジア・スース考古学博物館所蔵。

写真:Carole Raddato / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0

写真の出典(Wikimedia Commons)

ライセンス:CC BY-SA 2.0


ヒッポカンポス(Hippocampos)は、ギリシャ語の

Hippos(ヒッポス)=馬

Kampos(カンポス)=海の怪物

を組み合わせたものです。


現代のタツノオトシゴの属名 Hippocampus に受け継がれています。

また、ギリシャ神話では海神ポセイドンが馬を創造したとされ、競馬や馬術の守護神としても信仰されていました。


つまり、古代ギリシャでは「海」と「馬」が神話の中で結び付いていました。


ところで、人間の脳の中にも馬がいることをご存じですか?


人間の脳には、記憶や学習に重要な働きをする「海馬(かいば)」という部分があります。

この名前は、16世紀の解剖学者アランティウスが、その形をタツノオトシゴに似ていると考えたことに由来します。脳の海馬も、英語では hippocampus と呼ばれています。

脳の内部にある赤い部分が「海馬」。海馬は、記憶や学習に重要な役割を果たしています。左は側面から、右は正面から見た図。


画像:Life Science Databases(LSDB)/ Anatomography / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.1 JP

画像出典(Wikimedia Commons)

ライセンス(CC BY-SA 2.1 JP)


「海馬」が「タツノオトシゴ」に似ているというのは、次の写真を見れば一目瞭然です。

脳の「海馬」とタツノオトシゴの比較


人間の脳から取り出した海馬と、それに連なる脳弓の解剖標本を、実際のタツノオトシゴと並べた写真。両者の形が似ていることから、脳の海馬にも、タツノオトシゴと同じ Hippocampus という名前が付けられました。


原資料:Professor Laszlo Seress(1980年)

画像加工(トリミング):Anthonyhcole

画像:Laszlo Seress / Anthonyhcole / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0

画像出典 / ライセンス



こうして見てみると、なぜ、日本では『海馬』ではなく、『タツノオトシゴ』という和名が定着したのかが気になりますね。


調べてみると、江戸時代の日本では、タツノオトシゴはさまざまな地方名で呼ばれていました。


今でも、ウミウマ(海馬)、カイバ(海馬)、ウマノコ(馬の子、日本各地)、ウマノカオ(馬の顔、富山)、リュウノコマ(竜の駒、神奈川県三崎)、ウマヒキ(馬引き)、リュウグウノコマ(竜宮の馬、和歌山)、ウマウオ(馬魚)、タツノコ(竜の子、高知)などの方言があるそうです。


やがて、シーボルトらが日本で収集した標本をもとに、日本の動物をヨーロッパに紹介されるようになりました。そこで、学名が付けられたものもありました。


『Fauna Japonica』魚類編(1842〜1850年)

魚類編はテミンクとシュレーゲルが執筆し、タツノオトシゴの図版が載っています。


『Fauna Japonica』魚類編に掲載されていた種には、以下の学名が付けられています。


Hippocampus coronatus Temminck et Schlegel, 1850


この種が、和名で何と呼ばれていたかは不明です。


1897年(明治30年)に刊行された『帝国博物館天産部魚類標本目録』には、「たつのをとしご」という名称が記載されていますが、「つのうみうま」「はなうみうま」という名称もあり、竜や馬に由来する名前が、それぞれ異なる種に使われていたことが分かりました。


その後、1913年のJordan・Tanaka・Snyderの『日本産魚類目録』では、タツノオトシゴ属の6種の学名と和名が掲載されています。


「タツノオトシゴ」という名前は明治時代には魚類学の文献に登場していたものの、現在のような標準和名として定着するまでには、名称の整理や変更が行われていたことが分かりました。


以下は日本近海産のタツノオトシゴ属(13種)です。


これまでにわかったことをまとめてみました。


①「タツノオトシゴ」は江戸時代から存在した呼び名。

②1897年には、魚類学の目録にも登場。

③1913年には、特定の種 Hippocampus coronatus の和名として使用。

④その後、属全体にも「タツノオトシゴ属」という和名を使用。

⑤「タツノオトシゴ属」という和名を最初に採用した研究者と年代については不明。


今回の文献調査では、チャッピーが重要な役割を果たしてくれました。関連する文献の原著を検索し、そのリンクを提示してくれたので、原著で記載内容を確認しながら進めることができました。


「タツノオトシゴにまつわる物語」は、まだまだ続きそうです。





 
 
 

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