top of page
IMG_4274.JPEG

​身近な風景

登坂天蚕工房

  • 執筆者の写真: tokyosalamander
    tokyosalamander
  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

2025年11月2日(日)、四万温泉に行く途中で立ち寄った「中之条町ふるさと交流センターつむじ」で何気なく見ていた壁面の地図に「登坂天蚕工房」の文字を発見しました。

ree

天蚕」とはヤママユガのことです。カイコは屋内で飼育されることから「家蚕(かさん)」と呼ばれていますが、ヤママユガは野外で繭を作らせることから「天蚕(てんさん)」と呼ばれています。


「天蚕」の緑色の繭から作られる天蚕糸は、非常に丈夫で、「繊維のダイヤモンド」と称されるほど希少価値があり高価です。


天蚕の飼育は、現在では長野県の「安曇野市天蚕センター」で行われていることは知っていました。はたして、ここ中之条町でも「天蚕」が行われているのでしょうか。


半信半疑で「登坂工房」を検索し電話してみました。すると、登坂さんが電話に出るではありませんか。「今日はやってます」という言葉を信じ、急遽、「登坂工房」を目指しました。山奥の曲がりくねった道路を走ること5分、↓このような場所にたどり着きました。

ree

全く人気のない場所だったので、再び登坂さんに電話すると、そこは工房ではなく、天蚕の圃場だということが分かりました。すぐに迎えに来てくれることになりました。電話が通じる場所で助かりました。


ree

5分後、登坂昭夫さんが、軽トラで颯爽と登場しました。


軽トラを来た方向にUターンさせる際、犬小屋が押し倒され、バリバリと音を立てて崩れ去りました。茫然とたたずむ飼い犬には全く気を止めない登坂さんに、只者ではない何かを感じました。


圃場では、飼育ハウスの中にクヌギの木が全部で約1000株植えられているそうです。一つのハウスの長さは約90mで、それが10か所以上あり、壮大なプロジェクトという雰囲気が漂っていました。


登坂さんの運転する軽トラの後を付いて、「登坂工房」に向かいました。

ree

↓この2階建ての建物が「登坂工房」です。道路から直接2階に繋がっている通路を通って、室内に入りました。

ree

中には、このような風景が広がっていました。白色や緑色のカゴの中に、雄雌のヤママユガを入れ、交尾、産卵させるそうです。

ree

このカゴは、登坂さんの手作りだそうです。

ree

すでに産卵を終えたヤママユガの死骸が横たわっていました。

ree

カゴの表面には、直径3ミリ位の黒い粒々がたくさん付いています。これが、ヤママユガの卵です。この卵から孵化した幼虫を、先ほどのクヌギの圃場で放し飼いにします。飼育ハウスにはネットが掛けられ、鳥などから食べられないように大切に飼育します。

ree

ree

↓幼虫は繭を作り、その中で蛹になります。繭から出てきた成虫は卵をとるために、雄雌のペアで、カゴに入れられますが、絹糸を採るための繭はそのまま乾燥させます。

ree

↓左側の繭は、中に蛹が入っている状態で、右側の繭は蛹から羽化した成虫が抜け出ています。

ree

工房の1階には、繭とそこから絹糸を紡ぎだす機械が並んでいました。

ree

↓これらの繭は、今シーズン獲れたものです。

ree

きれいな黄緑色をしています。乾燥させているので、中の蛹は干からびてカチカチになっており、振るとカラカラと音がします。記念に1つくださいました。

ree

繭をお湯で煮て柔らかくし、繭から絹糸の一端を引き出し、この機械に取り付けて、巻きとります。一度に6個の繭から絹糸を引き出して、一本の糸にします。

ree
ree

黄緑色の絹糸が巻き取られていきます。

ree

この機械を使って、さらに太い絹糸を拠っていきます。こうした機械は、富岡の製糸工場で使われていたものと同じだそうです。

ree

次に、絹糸を使って、布を織りあげます。

ree
ree

このような手の込んだ作業によって、天蚕糸や天蚕布が作られていきます。このすべての行程は、登坂さん一人の手で行われているそうです。びっくりしました。


登坂さんは以前は家蚕の養蚕農家でしたが、中国産の安い絹に押され、国内の養蚕業の先行き不安などから、差別化を図るため、平成元年から天蚕飼育に取り組みました。当時は数軒の農家で取り組んでいましたが、今は登坂さん、ただ一人となってしまいました。しかし、国内最大規模の天蚕の飼育場になっており、毎年、飼育作業ボランティアが全国から集まってくるそうです。



続いて、天蚕糸によってつくられた製品を見せてくださいました。工房の向かい側にあるご自宅の蔵を改造した「天蚕館」を案内してくださいました。蔵の重い扉は防犯対策にもなっているそうです。

ree

蔵の中には、高価な天蚕糸や天蚕布による製品が所狭しと陳列されていました。

ree

世界的に活躍するデザイナー桂由美さんが作った天蚕のウェディングドレスも展示されていました。世界に一着だけです。天蚕布は大変高価で、1枚20000円以上します。天蚕で作られたコスメも開発されています。天蚕コスメは、ファランドールで購入することができます。SilkSalon Farandole



平成22年8月29日、当時の天皇皇后両陛下が、ここを訪問されました。皇室では、美智子さまが、天蚕を育てていらっしゃったので、どうしても見に来たいというオファーがあったそうです。綿密な打ち合わせと調整を重ねたうえでのご訪問だったとのことです。

ree
ree

天皇皇后両陛下のご訪問を記念して、登坂さんは自費で石碑を作りました。

ree

皇后さまが詠まれた歌が御影石の石板に刻まれています。

ree

こうして、ひょんなことから、天蚕を飼育し天蚕糸を作る「登坂工房」の登坂昭夫さんと出会いました。第一印象通り、やはり只者ではないお方でした。


ここには、大河ドラマのような「天蚕ストーリー」がありました。

 
 
 

コメント


身近な風景

©2023 身近な風景。Wix.com で作成されました。

bottom of page