群響:L. スラットキン
- tokyosalamander
- 12 分前
- 読了時間: 6分
2025年12月7日(日)14時~ 高崎芸術劇場、指揮者レナード・スラットキンと群響による「オール・アメリカン・プログラム」が演奏されました。プログラム終曲の、G.ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルーは最高の演奏でした。

ピアノ:アレクセイ・ヴォロディン(右)
指揮者:レナード・スラットキン(左)
高崎芸術劇場の2Fエントランススクエアには、クリスマスツリーが飾られていました。


指揮者のレナード・スラットキンさんは、群響とは初共演です。現在81歳、現代屈指の指揮者の一人で、世界中のほぼ全ての一流オーケストラを指揮しています。
スラットキンさんの名を一躍有名にしたのは、1979年にセントルイス交響楽団の音楽監督に就任してから、1983年に「タイム」誌の全米オーケストラ・ランキングで、シカゴ交響楽団に次いで、セントルイス交響楽団を全米2位に躍進させたことでした。
その当時、私は大学3年生でしたが、このニュースには驚いた記憶があります。シカゴ響の1位は当然としても、ニューヨークフィルやフィラデルフィアを差し置いてセントルイス響が全米2位なんてありえないだろう。スラットキンって何者だ、という興味が芽生えました。その後もシュフを務めた数々のオーケストラの演奏水準を飛躍的に引き上げたオーケストラビルダーとして知られているそうです。
スラットキンが残した録音の中で、ラフマニノフの作品集やルロイ・アンダーソンの管弦楽作品集など、私のお気に入りは増えましたが、実演に接する機会はありませんでした。
今回は、数々の名盤を残している自国アメリカの作品ばかりを集めた「オール・アメリカン・プログラム」です。群響からどんな響きを引き出すのか、期待は高まります。

1曲目:G.マクティ/サーキット
5分程度の短い曲でしたが、出だしからパンチの効いたエネルギッシュな作品でした。G.マクティさんは、実はスラットキンさんの奥さんでした。演奏後、スラットキンさんは奥さんをステージに上げて紹介し、お二人とも満面の笑みで拍手に応えていました。
2曲目:コープランド/バレエ音楽《アパラチアの春》全曲
アパラチアの春は聴いたことがありますが、全曲というのは初めてでした。演奏時間は40分弱です。この曲はスラットキンさんのお得意らしく、NHK交響楽団の2022年11月定期でも《アパラチアの春》全曲を演奏しています。今回、初めてスラットキンさんの指揮ぶりに接し、あまりの切れの良さにびっくりしました。さらに、群響から初めて聞くような響きを引き出していました。ベートーヴェンやブラームスといった重厚な音ではなく、もっと明るく透明度の高い音色がアメリカ音楽の楽しさを実感させてくれました。さすがはオーケストラビルダーです。メリハリやテンポ感も、とうてい81歳とは思えません。
このバレエ音楽は、コープランドが1800年代のアメリカのペンシルベニア州アパラチア高原の村が舞台で、アメリカの開拓民達が新しいファームハウスを建てた後の春の祝典で、新婚の夫婦、隣人などが物語を展開していきます。この演奏を聴いていると、子どもの頃NHKで放送されていた「大草原の小さな家」を思い出しました。年代や場所は違いますが、大自然の中で人々が手を取り合って生きてきた姿が蘇りました。最後は祈りのような静寂で曲が閉じられましたが、必然性を感じさせる演奏で、とても感動しました。
3曲目:バーンスタイン/《キャンディード》序曲
勢いのあるファンファーレから始まり、一気呵成に進んでいきます。スラットキンさんの指揮の素晴らしさは、力業でぐいぐい押していくのではなく、途中の旋律のバランスや抑揚の付け方などを丁寧に指揮していて、曲の本来の姿を伝えてくれたことです。この曲はこんな曲だったんだ、と改めて気づかせてくれました。
4曲目:バーバー/弦楽のためのアダージョ
3曲目が終わると、弦楽を残して、他の奏者はステージの裏側から退場しました。それをスラットキンさんは、指揮台から降りてじっと見ていて、準備が整うと、再び指揮台に乗りました。普通、指揮者も準備ができるまで舞台袖で待っていてもいいのですが、一緒にやっている仲間たちを見守るような雰囲気が素敵でした。演奏は、群響の弦楽セクションの素晴らしさを実感しました。スラットキンさんは、情緒的に煽るようなことはせず、淡々とこの曲の姿を正確に表現しようとしているように感じました。いい演奏だったなと心に残りました。
5曲目(終曲):G. ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
ピアノは、アレクセイ・ヴォロディンでした。今回は、前から5列目の真ん中で聴いていたので、ちょうど、ピアノが目の前にありました。ヴォロディンさんの弾くピアノの音色が目の前から飛び出してくるのが楽しかったです。ラプソディ・イン・ブルーはこれまでに実演でも聴いたことがありますが、これほど、協奏曲の様にピアノが重厚に響き渡った演奏は初めてでした。最後はスラットキンさんと群響がこれ以上ないくらいに盛り上げてくれました。最高のラプソディ・イン・ブルーでした。

2度目のカーテンコールで、スラットキンさんは、聴衆の方を見ながら茶目っ気たっぷりに、ピアノの方を指さしました。ヴォロディンさんに「アンコールをどうぞ!」と言っているようでした。

ヴォロディンさんは、結局、素晴らしいアンコールを2曲も弾いてくれました。その間、スラットキンさんも、ステージ上で楽し気に聴いていました。
今回の「オール・アメリカン・プログラム」は、振り返ってみると、ストーリーがあったように思いました。前半は、スラットキンさんお得意のアメリカ音楽にどっぷりと浸かり、後半は、《キャンディード》序曲、弦楽のためのアダージョ、ラプソディ・イン・ブルーの3曲が、急・緩・急というあたかも交響曲のような、ずっしりとした聴きごたえを堪能しました。そして何よりも、スラットキンさんの切れのいい指揮ぶりと茶目っ気ぶり、オーケストラビルダーとしての実力を見せつけられました。
私も会場の皆さんも、カーテンコールでスラットキンさんに最高の拍手を贈りたかったのですが、とうとうお一人で出てくることはありませんでした。(スラットキンさんのワンショットの写真は残念ながら撮れませんでした)
やがてステージが明るくなりました。これで終わりですという合図です。
会場の皆さんの拍手には、スラットキンさんがお一人で登場しないなんて、まさかそれはないだろう、という気持ちがこもっていました。

最後の最後に、ヴォロディンさんとスラットキンさんが二人で登場し、さよなら、と手を振って去っていきました。
スラットキンさんは、謙虚な方なのかもしれませんが、それ以上に過去の栄光には興味がなく、今を楽しんでいることが伝わってきました。
今年聴いた群響のコンサートの中で、今日のスラットキンさんの「オール・アメリカン・プログラム」が最も楽しかったです。




コメント