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​身近な風景

群響:千人の交響曲

  • 執筆者の写真: tokyosalamander
    tokyosalamander
  • 5 日前
  • 読了時間: 5分

更新日:2 日前

2025年11月29日(土)、群響の創立80周年を記念して、マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」(群響初演)とドラマやアニメの音楽で知られる作曲家、菅野祐悟(かんの ゆうご)さんに依頼した新作「祝祭」(世界初演)が演奏されました。

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群馬交響楽団は、1945年(昭和20年)11月、戦後の荒廃した高崎市に産声をあげました。最初は小さな泉から沸き出た一筋の流れが、80年の時を経て、群馬県を貫く利根川のような大きな流れに変わってきました。第613回定期演奏会は、創立80周年を記念する今シーズンの頂点ともいえる演奏会でした。

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ロビーには、創立80周年を記念するたくさんの花が飾られていました。


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また、群響の80年の歩みを紹介するパネルも展示されていました。


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1曲目は、菅野祐悟作曲「祝祭」(群響委嘱・世界初演、約9分)でした。

この曲は、「”音楽”という概念がこの世に存在しない世界に、初めて音楽が立ち上がったなら、その響きはどのようなものだろう」そんな夢想から生まれた作品です。(以上、当日のプログラムへの作曲者の寄稿より)


菅野さんは、J-POPへの楽曲提供、アニメ音楽、映画音楽、CM音楽、テレビ・ドラマ音楽など、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの人気作曲家です。純音楽作品として、交響曲や協奏曲の作品もあります。菅野祐悟 - Wikipedia


群響の常任指揮者である飯森範親さんが菅野さんに群響委嘱作品のオファーをしたそうです。コンサート前のプレトークでのお話では、飯森さんの息子さんが高校生の頃、将来、映画音楽などの作曲をしてみたいという相談があり、それだったら菅野さんの話を聞いてみたら、ということで菅野さんに電話したことが、知り合うきっかけだったそうです。今、息子さんは音楽大学の1年生で今日も会場に来ている、というつながりが披露されました。


さて、「祝祭」の世界初演ですが、今回はマーラーの第8番のために、「オーケストラアンサンブル金沢」のメンバーが加わっており、「祝祭」もその規模で演奏されました。曲は静寂な雰囲気から始まり、やがて分厚い響きが一気に会場全体に広がりました。いわゆる現代音楽的な難解なフレーズではなく、生身の人間の声の様に、親しみのある優しい音響に包まれました。群響が荒野の中の泉の様に誕生し、数々の苦難や葛藤を経ながら、周囲を巻き込み、愛される存在となっていくことを暗示するかのように、音楽が脈打ちました。そして、頭の中に映し出される映像のサウンドトラックのように、心地よい音楽に包まれました。演奏終了後、作曲者自身がステージ上に招かれ、飯森さんとハグし合う姿が印象的でした。


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20分間の休憩を経て、マーラーの超大作、交響曲第8番「千人の交響曲」が始まります。始まるといっても、ステージ上に合唱団やオーケストラが揃うまでに10分近くかかりました。総勢460名だそうです。今回は少年合唱団として、群馬県藤岡市立小野小学校合唱部の4~6年生42名が参加しました。小学生の登壇の際はひときわ大きな拍手が起こりました。


この曲は、1910年9月12日、マーラー自ら指揮して初演し、生涯最大の大成功を収めました。「千人の交響曲」という名称は、実は興行主が名づけたもので、マーラーは嫌悪していたそうですが、オーケストラ171人、合唱団が850人、独唱8名、指揮者のマーラーを入れると、1030人を数えました。「千人の交響曲」はけっして誇大表示などではなく、実態を示した名称だったのです。今回のステージは460人ですから、初演時はその倍以上の演奏者によって奏でられました。


また、交響曲と言っても、通常の4楽章によるものではありません。当初のスケッチでは、全曲は4楽章で構想されていましたが、結局、2つの中間楽章をやめて、全2部としました。第1部はテクストがラテン語で書かれており、すべての宗教を超越することを意図していたそうです。(演奏時間:約20分)一方、第2部のテクストはドイツ語によって、ゲーテの「ファウスト」第2部の最終場面、「山峡、森、岩」をト書きつきで用いられているそうです。(演奏時間:約60分)。第1部と第2部で合わせて約80分になります。これが4楽章構成だったら、と思うとぞっとしますね。


さて、第1部は冒頭から、「来たれ、創造主たる聖霊よ!われらの魂を訪れたまえ」とオルガンに全オーケストラ、大合唱が加わる最高潮の響きから始まりました。そしてそのまま、休むことなく一気に突き進みました。小学生の合唱団が、出番の直前に、すっくと立ちあがった瞬間は感動しました。最後は金管楽器のバンダ(別働隊)も加わって、飽和状態の音響で終結しました。おそらく、私が高崎芸術劇場で体験した最大の音響だったことは間違いありません。


第2部は、荒涼とした「ファウスト」の岩窟の場面を表現する弱音から始まりました。その後、寄せては返す波のように、第1部で登場したテーマが何度も登場しました。マーラーは、指揮者のメンゲルベルクに、「今、第8番が完成したところです。‥想像してください。宇宙が鳴り響き出すのを。それはもはや人間の声でない。公転する惑星や太陽なのです。」と手紙で伝えています(1905年8月18日付け)。寄せては返すようなところは、天体の公転を示唆しているのかもしれません。約60分におよぶ第2部の終局では、第1部の終結が回帰し、金管のバンダが加わり、再び大音響が響き渡りました。正直、ドイツ語で何を言っているのか、どのようなストーリーが展開されているかはわかりませんでしたが、マーラーは苦悩や葛藤を超越し、肯定的な響きだけで、宇宙の鳴動を表現しようとしていたことが伝わってきました。


最後の音がホール全体に反響する中、飯森さんの指揮棒が降ろされると、大喝采とブラボーの嵐が包み込みました。

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演奏に関わった独唱者たちからも笑顔がこぼれていました。


指揮者の飯森さんは、カーテンコールで呼び出され、楽団員や合唱団を称える際、真っ先に向かった先は、小学生42名の合唱団でした。飯森さんは、自ら藤岡市立小野小学校に出向き、なぜ、この曲では児童合唱団が必要なのか、合唱の言葉の意味などを伝えていたそうです。本番でも小学生たちの清らかな歌声は客席まで届いていました。ステージ上で約80分間の緊張に耐え抜いたことは、本当に頑張ったと思いました。


本日(30日)は、2夜連続での「80周年記念特別演奏会」が開催されます。おそらく、終演後、飯森さんは児童合唱団の皆さんをステージ前面に連れてきて、ねぎらうのではないかと想像しています。(オルフ作曲「カルミナブラーナ」の演奏会と同じように!)


とにかく、すべてが素晴らしかったです。群響のこれからの歩みを楽しみにしています。





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