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​身近な風景

群響:グラス+ブルックナー

  • 執筆者の写真: tokyosalamander
    tokyosalamander
  • 2 日前
  • 読了時間: 6分

2026年6月20日(日)、高崎芸術劇場で第619回定期演奏会が開催されました。指揮者は群響初登場のユージン・ツィガーン。現代のミニマル音楽を代表するアメリカの作曲家フィリップ・グラスと19世紀のオーストリア人作曲家アントン・ブルックナーによる意欲的なプログラムでした。


<プログラム>


グラス:2人のティンパニストと管弦楽のための協奏的幻想曲(2000)

ティンパ二/三橋敦・辻本智裕(群響首席奏者)

(休憩)

ブルックナー:交響曲第7番(コールス版)


指揮/ユージン・ツィガーン


開演40分前、プレ・コンサート・トークとして、指揮者のユージン・ツィガーンさんが、通訳と共にステージに登場しました。ツィガーンさんは、お母様が日本人ということで流暢な日本語を話しておられましたが、細かな言い回しには自信がないということで、通訳の方に、日本語の表現を確認してもらいながら話を進めました。とても誠実な方だなと思いました。


グラスの音楽は、アメリカの実験音楽を基盤に、アフリカ音楽やインド音楽などさまざまな要素を取り入れて発展したミニマル音楽です。一方、ブルックナーの音楽は、敬虔なカトリック信徒で神の栄光を称える壮大な交響曲が有名です。


それぞれの立ち位置はまるで相反するものですが、フレーズの繰り返しが多く、少しずつ音型が変化するという共通点があります。ツィガーンさんによると、グラスとブルックナーの音楽のつくりは、子どもの頃に遊んでいたレゴ・ブロックに似ているそうです。グラスはリズムや音型などのアイディア(レゴ・ブロック)がデジタル的できちっと積み重なっていくのに対して、ブルックナーは、レゴ・ブロックの形そのものが緩やかに変形しながらも、全体として積み重なっていくという違いがあります。しかし、それでもレゴ・ブロックなのです。



1曲目の「2人のティンパニストと管弦楽のための協奏的幻想曲(2000)」。

開演前のステージ上には12個のティンパニが並んでいました。向かって左側の6個のティンパニを三橋敦さん、右側の6個のティンパニを辻本智裕さんが演奏しました。

一般にティンパニはオーケストラのリズムやアクセントを担当しますが、この作品では、


音程を細かく変えながら

メロディーを歌い

管弦楽と掛け合う


という、従来のイメージとは大きく異なる役割を担っています。そして、


短い音型の反復

少しずつ変化していく和声

一定の脈動感


というグラスらしい反復の美しさがあります。


2人のティンパニ奏者(群響の首席奏者)は、


ときには競い合い

ときには支え合い

ときには一体となって


音楽を作っていきます。


2人のティンパニ奏者がペダルを操作しながら、まるで鍵盤楽器や弦楽器のように「歌わせる」様子は圧巻でした。2人は間違いなく会話をしていました。演奏が終わると、会場からは割れんばかりの拍手が鳴りやみませんでした。このようなティンパニの名手が二人もいる群響は凄いなと思いました。


曲は、

第1楽章(急)「力強い躍動感と対話」

映画「ミッションインポッシブル」の旋律と激似。グラスらしいミニマル音楽。


第2楽章(緩):「静かで瞑想的な世界」

→ティンパニは、柔らかな音色で歌っています。


カデンツァ:「静かな第2楽章から、躍動的な第3楽章への架け橋」


第3楽章(急)「祝祭的なフィナーレ」

ラテン系のノリの良いリズム


という構成です。


約24分間の曲でしたが、この構成は次に演奏されるブルックナーの交響曲第7番の構成を彷彿とさせました。ブルックナーの第7番は、第1楽章と第2楽章が重厚であるのに対し、3・4楽章が軽いと言われています。グラスのこの曲は、ブルックナーの交響曲第7番の構成と似ていて、第3楽章のラテン系のノリが、ブルックナーの第3楽章から第4楽章にかけてのノリの良さに共通しているように感じました。


グラスとブルックナー、どちらも繰り返しが多いという表面的な共通点だけでなく、この組み合わせの2曲には、楽曲の構成でも共通点があることを感じました。思わず、唸らせるようなプログラミングの妙に驚かされました。



さて、休憩後には、お待ちかねのブルックナー交響曲第7番が演奏されました。


ツィガーンさんのプレ・コンサート・トークでは、ブルックナーの交響曲のスコアには、テンポなどがあまり指定されていないので、原点主義でそれをそのまま演奏すると、変化のない固くて重い演奏になってしまっている、というお話がありました。しかし、ブルックナーはもともとオルガン奏者でもあったので、演奏会場に応じたテンポの変化等は演奏者に委ねていたため、あえて書かなかったのだそうです。


そこで、ツィガーンさんは、第7番をテンポのゆれのある生き生きした音楽を生み出すことを今日の演奏で目指しているそうです。


また、第1楽章と第2楽章が長くて重く、第3楽章と第4楽章が短くて軽い、というアンバランスに対しては、

第1楽章(1/3)

第2楽章(1/3)

第3楽章+第4楽章(1/3)

とバランスを取り、最後はお祭りの様な気分で締めくくる、という考え方で演奏する、と宣言されていました。



ツィガーンさんによって演奏された「ブルックナーの第7番」は、まさにそれを実行した、という言葉に尽きるように思いました。なお、ツィガーンさんは、最新の研究成果を取り入れた校訂版(コールス版)を採用していました。


聴かせどころでテンポが大きく変化するなど、メリハリが際立ち、よりドラマティックな演奏であったにもかかわらず、流れは自然でした。第1楽章から第3楽章の盛り上げ方が効果的でビシッと決まっていたので、思わず拍手しそうになりました。


また、音が非常にスッキリしていて透明度が高いことも驚きでした。これは楽器の配置の影響も大きいのではないかと思いました。


今回、特に印象に残ったのは弦楽器の配置でした。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれ、チェロが中央、ヴィオラが右後方、コントラバスが左後方という配置が採られていました。このような対向配置はブルックナー作品で用いられることがあり、各声部の動きが明瞭になって、重厚さだけではない透明感のある響きが生まれていました。第7番の美しい対位法が実によく伝わってきました。


また、ブルックナーの交響曲では、チェロとコントラバスがユニゾンになる場面が非常に多いので、低音が濁らず明瞭に聞こえてきました。特に第1楽章では、チェロが主役となる場面が多く、まさに聞かせどころが中央から朗々と鳴り響きました。

ブルックナーが、大自然の中で歩みを進めながら、急に足を速めて駆け寄ったり、立ち止まって仰ぎ見たりするような生き生きとした情感が、テンポや音量の変化によって、手に取るように伝わってきたような気がしました。


まさに、ツィガーンさんの思い描くブルックナー像が、明確に眼前に繰り広げられました。これほどの強い意志が、団員の自発的な演奏によって成し遂げられたことに感動しました。群響は見事に鳴りきっており、私は身も心もゆだねて音楽に聞き入ってしまいました。


この指揮者は只者ではないですね。

またこの人の演奏で群響を聴きたいと思いました。

 
 
 

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