群響:ザ・グレート
- tokyosalamander
- 7 時間前
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2026年1月25日(日)、今年初の群響定期演奏会(高崎芸術劇場)を聴きに行きました。デ・フリーントの指揮によるシューベルト交響曲第8番「ザ・グレート」は、切れのいいリズムが躍動する怪演でした。

第614回定期演奏会は、今、世界で引っ張りだこのオランダの指揮者ヤン・ヴィレム・デ・フリートさんが群響に登場しました。おそらく、初登場かと思われます。
山田耕作:序曲
ブルッフ:クラリネットとヴィオラのための協奏曲
クラリネット(田村知子:群響首席奏者)
ヴィオラ(池田美代子:群響首席奏者)
シューベルト:交響曲第8番「ザ・グレート」

<山田耕作:序曲>
この曲は、日本人が書いた最初の管弦楽曲です。今から、114年前の明治45年(1912年)、留学中のプロイセン(ドイツ)ベルリン王立アカデミー高等音楽院で作曲されました。初演は、1915年、山田耕作自身の指揮により、帝国劇場で行われました。
3分間ほどの小曲ですが、デ・フリーントさんと群響の演奏からは、古典的な様式の中に馥郁としたロマン派の流れを感じました。山田耕作が西洋音楽と出会った感動が伝わってきました。新年の1曲目にふさわしい曲と演奏でした。
<ブルッフ:クラリネットとヴィオラのための協奏曲>
2曲目も滅多に聴くことができない曲です。山田耕作がベルリン王立アカデミー高等音楽院に入学した当時、ブルッフは同音楽院の副総裁を務めており、山田はブルッフにも師事していました。この曲が作曲されたのは1911年で、山田耕作が序曲を作曲した1年前でした。そういわれて見ると、山田の序曲の雰囲気は、ブルッフの同協奏曲に通じるものがあるように感じました。
「クラリネットとヴィオラのための協奏曲」が作曲された1911年は、ブルッフは晩年(72歳)になっており、一世を風靡した「ヴァイオリン協奏曲第1番」の作曲(1868年)から40年以上の年月が経っていました。また、当時はマーラーやシェーンベルク、ストラヴィンスキーが活躍していた時代であり、もはやブルッフの音楽は時代遅れとされていましたが、この曲にもブルッフならではの美しい旋律が散りばめられています。
今回の演奏のソリストは、二人の群響首席奏者(女性)でした。お二人とも、黒や群青色を基調とした衣装で登場しました。ヴィオラの首席奏者27年目の池田さんが、2023年からクラリネットの首席奏者に就任した田村さんを優しくエスコートする雰囲気が印象的でした。こうしたお二人の関係性や楽器同士の親和性、そして息の合った演奏によって、目立ち過ぎず、聴く人を幸せな気分にさせてくれるブルッフの美点を余すところなく伝えてくれました。メンデルスゾーンをもう少しローカルにした素朴な味わいがあり、こちらも新春にふさわしい、穏やかな安心感と心浮き立つ楽しさを感じさせてくれる演奏でした。
<シューベルト:交響曲第8番「ザ・グレート」>
3曲目が今回の最大の聴き物、シューベルトの「ザ・グレート」です。指揮者のデ・フリーントさんは、1982年に18世紀音楽の演奏を専門とした「コンバッティメント・コンソート・アムステルダム」を創設し、ピリオド奏法をモダン楽器に適用した演奏することで、国際的な名声を確立しました。そのアプローチを、モーツァルトやベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、ブラームスなどに適用することで、演奏に新たな命を吹き込んでいます。
シューベルトの「ザ・グレート」は、デ・フリーントさんお得意の曲らしく、首席指揮者を務めていたオランダのハーグ・レジデンティオーケストラとシューベルトの交響曲全集を録音しています。ザ・グレートは2019年に録音されています。https://open.spotify.com/intl-ja/track/3gNnR3Bkb7I8eqouT1tCGF?si=4071414e55d44ddc
また、京都市交響楽団とは2022年にザ・グレートを演奏し、その相性の良さから、2024年4月から同オーケストラの首席客演指揮者に就任しています。
さて、群響の定期演奏会では、開演40分前から、ステージで「プレ・コンサート・トーク」が行われており、今回はデ・フリーントさんが出演しました。その中で、ザ・グレートについては、様々な新規性が盛り込まれていることを力説されていました。
「まず、第一楽章はホルンの穏やかなソロから始まります。これは初めての試みでした。第2楽章ではアンダンテが採用され、そぞろ歩きをしながら、自然の素晴らしさを満喫しています。第3楽章では一転してスケルツォで管楽器がフル活躍し自然の怖さも感じさせてくれます。最後の第4楽章はまさに一大スペクタクルで、バイオリンやチェロが協奏曲であるかのように活躍し、壮大な交響作品にまとめ上げています。」
このお話を聞いた限りでは、ザ・グレートは、ベートーヴェンの田園に匹敵する長大で穏やかな交響曲という解釈で演奏するのかなと思っていましたが、実際に演奏が始まると、そのイメージはあっさり覆されました。
古楽演奏であるピリオド奏法が取り入れられていることもあり、冒頭から快速です。デ・フリーントさんの指揮は、指揮棒を使わず、両腕をフル回転し、まさに体全体で指揮していました。音のダイナミクスが大きく、歌わせるところは思い切って歌わせています。管楽器が掛け合う場面では、右手と左手が互い違いに突き出され、一瞬たりとも動きが鎮まることはありませんでした。群響のもてる力が余すところなく引き出されていることを感じました。群響とも相性がいいのではないでしょうか。第1楽章の最後は、あまりにも盛り上がりすぎて、思わず、会場から拍手が起こったほどでした。私も心の中では大きな拍手を送っていたので、気持ちは分かりました。第2楽章も、そぞろ歩きどころではなく、駆け抜けるような勢いがありました。全楽章を通して、デ・フリーントさんの体は全力で動き回っていました。
シューベルト生前の試演では、長すぎて演奏不能との評価が、シューマンの再発見時には「天国的な長さ」との賛辞に変わり、今回のデ・フリーントさんの演奏では、段違いのリズムの推進力と色彩的なオーケストレーションが加わり、「もう終わりなのか」という快感に酔いしれました。

団員の皆さんも、デ・フリーントさんに最大の敬意を示していました。

プログラムではザ・グレートの演奏時間は約60分と記載されていましたが、実際には55分くらいで終わりました。終演予定時刻の18時より約15分早い終演となりました。
満ち足りた気分で帰途に着きました。




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